本記事は、筆者個人の計算例と考え方の記録です。退職・投資の判断を推奨・助言するものではありません。配当は減配・無配のリスクがあり、年金・税制も変わり得ます。「数字上成立する」ことと「実際に辞めて問題ないこと」は別であり、判断はご自身の状況に基づき、必要に応じて専門家にご相談ください。

配当金で会社を辞められるかどうかは、「月の総支出を配当が上回っているか」から逆算できます。

式はシンプルです。月の総支出 − 月の配当 = 不足額。不足額がゼロ以下なら資産は減りません。不足があっても、不足額 × 年金開始までの年数 ≦ 手元資金なら、数字のうえでは成り立つ計算になります。

先に目安だけ言うと、月の支出が15万円なら配当15万円で「資産が減らないライン」。配当が10万円でも、不足5万円×年金開始までの年数を手元資金で埋められるなら、次のラインに乗ります。

ある平日の夜、机に配当の入金明細と家計の数字を並べて、電卓でこの計算をしたことがあります。「今この瞬間に辞めたら、どうなるのか」。40歳から投資を始めて9年、資産は約6,000万円、配当は年約120万円(税引後)=月10万円になっていました。その夜に出た答えと、そこで使った逆算式をこの記事に書きます。

配当と支出の数字を並べて逆算するイラスト

この記事でわかること

  • 「配当金いくらで辞められるか」を自分の数字で計算する逆算式
  • 3つのライン(資産が減らない/元本温存/取り崩し)の考え方
  • 配当月10万円の私が実際に計算した結果と、出した結論

逆算式の作り方——必要なのは2つの数字だけ

総支出と配当の2つの数字を確認するイラスト

計算に必要な数字は2つだけです。「月の総支出」と「月の配当(税引後)」

①月の総支出を1つの数字にする

家賃・食費・通信費・保険・交際費——分類は不要です。1ヶ月に出ていくお金の合計を1つの数字にします。私の場合は月13万円台でした。

ここで正直に書いておくと、この金額は世間より低めです。総務省の家計調査(2024年)では、単身世帯の消費支出の平均は月16.9万円。私の支出は平均より月3〜4万円少ない、節約寄りの水準です(出典:総務省統計局 家計調査)。式に入れるのは、私の数字ではなくご自身の数字です。支出が多いほどラインは遠くなり、少ないほど近くなる——それがこの式の仕組みです。

②配当は「税引後」で見る

国内株の配当には約20%の税金がかかります(NISA口座は非課税)。証券口座の入金額ベース、つまり手取りで数えてください。私の場合は年約120万円(税引後・株主優待約10万円分を含む)=月10万円です。ただし優待は金券などの現物で、家賃や保険料には充てられません。厳密に計算するなら、現金として入る配当だけ(私の場合は月9万円台)で見るほうが保守的です。以下の計算例は月10万円で概算しますが、この分の甘さがあることは踏まえておいてください。

💡 ポイント 「配当が月いくらなら辞められるか」に一律の正解額はありません。月20万円でも支出が25万円なら足りず、月8万円でも支出が7万円なら資産は減りません。金額そのものではなく「自分の総支出との差」がすべてです。

3つのライン——どこまで許容するかは人による

3つのラインを比較するイラスト

2つの数字が揃ったら、自分がどのラインにいるかを確かめます。

▼図解:配当で辞める「3つのライン」(筆者の整理)

ライン 条件 資産はどうなるか
①配当だけで完結 配当 ≧ 月の総支出 1円も減らない(減配リスクは残る)
②橋渡しで成立 不足額×年金開始までの年数 ≦ 現預金+退職金 投資元本は温存。現預金が減っていく
③元本を取り崩す 上記どちらも満たさない 元本を売りながら暮らす領域

ライン①:配当 ≧ 総支出(資産が1円も減らない水準)

配当が生活費を丸ごとカバーする状態です。理屈のうえでは、資産に手をつけずに暮らせます。ただし配当には減配・無配のリスクがあるため、①に届いていても「保証された状態」ではありません。

ライン②:不足分を現預金+退職金で年金開始まで橋渡し(元本温存)

配当だけでは足りなくても、「不足額 × 年金開始(原則65歳)までの年数」を現預金と退職金で埋められるなら、投資元本を売らずに年金開始まで到達できる計算になります。退職金の目安は会社によって大きく違うため、勤務先の制度と、厚生労働省の就労条件総合調査などの公開統計を照らして見積もるのが現実的です。

ライン③:元本を取り崩す領域

①②を満たさない場合は、投資元本を売りながら暮らす領域に入ります。一般に「資産残高の4%を目安に取り崩す」という考え方(4%ルール)が知られていますが、米国データに基づく概念であり、成立を保証するものではありません。取り崩しの考え方は高配当株は売らない出口戦略に詳しく書いたので、ここでは深入りしません。

⚠️ 注意 この3ラインは「数字の整理」であって、どのラインなら辞めてよいという推奨ではありません。①に届いていても辞めない人もいれば、③でも辞める判断をする人もいます。許容できるラインは、家族構成・健康状態・仕事観によって変わります。

配当月10万・49歳の私の場合——「成立圏。ただし綱渡り」だった

その夜、私の数字を式に入れると、こうなりました。

  • 月の総支出:13万円台
  • 月の配当:10万円(税引後)
  • 不足額:月3万円台
  • 年金開始(65歳)まで:49歳からあと16年
  • 不足総額:月3万円台 × 12ヶ月 × 16年 = 約600〜750万円

この不足総額は、手元の現預金と、勤続年数相応の退職金を合わせれば埋まる計算でした。つまり私はライン②——今この瞬間に辞めても、数字のうえでは成立圏にいました。

最後のキーを押して、しばらく画面の数字を眺めていました。出てきた感想は「辞められる」ではなく、「これは綱渡りだ」。渡れないわけではない。でも、風が一度吹いたら——そのくらいの幅の橋でした。

理由は、辞めた瞬間に支出側が膨らむからです。会社員でなくなると、国民健康保険・国民年金・住民税などを自分で払うことになり、一般論として月3〜4万円規模の固定費増を見込む必要があります。不足額が月3万円台から月6〜7万円台に膨らむと、不足総額は約1,200〜1,500万円。まだ成立圏には残りますが、余裕はほぼ消えます。減配が1回来たら、想定外の出費が1つ重なったら——そう考えると、「成立」と「安心」の間には、はっきり距離がありました。

💡 補足 早期退職には収入側の目減りもあります。厚生年金は加入をやめた時点で上乗せが止まるため、65歳からの受給額は働き続けた場合より少なくなる傾向がありますし、退職金も多くの会社で勤続年数・退職理由により変わります。私の計算例の「見込み月15.5万円」の年金も、60歳まで働く前提の試算です。

配当金を軸にした場合、FIREの種類で3つのラインはどこに当たるか

FIREの類型と3つのラインの対応を整理するイラスト

FIREには、生活水準と働き方の組み合わせでいくつかの類型があります。この記事の3つのラインと対応させると、自分がどの型に近いかも見えてきます。

▼図解:FIREの類型と3つのラインの対応(筆者の整理)

FIREの類型 中身 3つのラインでいうと
ファットFIRE 支出水準を落とさず資産収入で完全リタイア ライン①を大きな支出のまま満たす形。仮に支出が月25万円なら、配当も月25万円(年300万円・税引後)規模が必要になる計算
リーンFIRE 支出を抑えて少ない資産収入で完全リタイア ライン①を小さな支出で満たす形。私の支出(月13万円台)なら、配当月13万円台で届く計算
伝統的FIRE(4%ルール型) 資産を取り崩しながら暮らす ライン③そのもの(4%ルールは前述のとおり保証ではありません)
サイドFIRE・バリスタFIRE 資産収入+労働収入で生活 ライン②の変形。不足額を現預金ではなく労働収入で埋める形
コーストFIRE 老後資金のめどが立ち、現役中の生活費だけ稼げばよい状態 ラインの手前の概念。年金と配当で老後の枠組みが数字上できていれば、これに近い

※リーンFIRE・ファットFIRE自体は、取り崩し型(ライン③)でも成立します。分類の軸はあくまで支出水準で、この表は「配当を軸に実現する場合」の対応です。

この対応で見ると、働き続けている今の私は、表でいえばコーストFIREに近い位置にいます。そして仮に今辞めるなら、着地点はこう読めます。リーンFIREのラインまで、配当あと月3万円台。サイドFIREなら、月3万円台の不足をわずかな労働収入で埋められるため、数字のうえでは成り立つ計算です。つまり先ほどの「綱渡り」の正体は、辞めた場合の着地点が、リーンFIREとサイドFIREの境目にある状態、と言い換えられます。

どの型を目指すかで、必要な配当額はまったく変わります。型を先に選ぶのではなく、自分の総支出から逆算して「どの型が現実的か」を確かめる——それがこの式の使い方だと思っています。

数字のラインと、実際に辞める判断は別の話

計算を終えて私が出した結論は、「辞める」ではありませんでした。

配当があと月3万円増えれば、辞めた後の固定費増を織り込んでも余裕が生まれる。私の積み上げペースだと、そのラインは60歳を待たずに来る見込みです。それでも私は、60歳を自分の区切りに選んでいます。

矛盾しているように見えるかもしれませんが、この計算をした意味は「辞める日を決めること」ではなく、「いつでも辞められると知って働けること」にありました。完全に辞めるのではなく、配当を土台に働き方を選ぶ——いわゆるセミリタイアに近い状態も、同じ式に労働収入の項を足せば計算できます。数字のラインを知ってから、仕事との距離感が変わりました。「行かなきゃ」ではなく「行ってもいい」——この感覚の話は6,000万円あってもFIREしない理由に書いています。

まとめ|まず「自分の2つの数字」を出すことから

  • 配当で辞められるかは「月の総支出−配当」の逆算で機械的に確かめられる
  • ラインは3つ:①配当≧総支出 ②不足分を現預金・退職金で年金開始まで橋渡し ③元本取り崩し
  • 私(総支出13万円台・配当月10万円・49歳)は「今すぐでも成立圏、ただし綱渡り」。退職後の社会保険・税の固定費増で余裕はほぼ消える計算だった

数字のラインに到達することと、実際に辞める判断は、別の話です。私はこの計算を「辞めるため」ではなく、いつでも辞められると知って働くために使っています。

私の最初の一歩は、辞める準備ではなく、月の総支出を1つの数字にまとめることでした。

自分の数字でラインを確かめるイラスト

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本記事は筆者個人の計算例・体験の記録であり、退職や特定の金融商品・投資手法を推奨・助言するものではありません。配当には減配・無配、株式には元本割れのリスクがあります。年金・社会保険・税制は変更される場合があり、記事内の一般論は執筆時点の情報です。実際の受給額・退職金は個人・勤務先により大きく異なります。重要な判断の前には、ねんきんネット等の公式情報の確認や、必要に応じて専門家への相談をおすすめします。投資判断・退職判断はご自身の責任で行ってください。