ご利用にあたって
本記事は筆者個人の検討過程を記録したものです。税制は個人の状況や制度改正によって異なり、本記事は税務アドバイスではありません。iDeCoの受け取り方の最終決定にあたっては、税理士・FP等の専門家にご相談ください。

退職金があるとiDeCoの一括受け取りは損——そう思い込んでいた私が試算したら、同じ年に受け取っても税額ゼロでした。

2019年、42歳でiDeCoを始めました。今は49歳。60歳の退職まであと11年。

「受け取り方をそろそろ考えないと」と思い、スプレッドシートに退職金の試算とiDeCoの試算を並べて計算し始めました。退職金がある会社員が「60歳退職と同時にiDeCoも一時金で受け取る」という選択が、税金面でどうなるかを数字で検証したのがきっかけです。

本記事は、2026年6月時点の制度に基づいて私が試算した記録と「仮の答え」をまとめたものです。まだ確定ではなく、最終判断は退職前に税理士へ相談する予定です。同じ状況の40代の方の参考になれば。


iDeCoの出口戦略を考え始めた

iDeCoの受け取り方は3択|一時金・年金・併用

iDeCoの受け取り方には、大きく3つの選択肢があります。

①一時金(一括受取)

全額をまとめて受け取る方法です。「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用されます。

退職所得控除額の計算式(加入年数ベース):

加入年数 計算式
20年以下 40万円 × 加入年数(最低80万円)
20年超 800万円 + 70万円 × (加入年数 − 20年)

課税対象 = (受取額 − 退職所得控除額) × 1/2

控除額が受取額を上回れば、税負担はゼロになります。

②年金(分割受取)

5年・10年・15年・20年などに分けて受け取る方法です。「雑所得(公的年金等)」として扱われ、公的年金等控除が適用されます。

公的年金(国民年金・厚生年金)と合算して計算されるため、受取額が多いほど課税所得が増える可能性があります。一方、毎年の受取額を分散することで課税を平準化できるメリットもあります。

③一部一時金+残り年金

一定額を一時金で受け取り、残りを年金形式で受け取る方法です。金融機関によって対応が異なります。


どれが「得か」は、退職金の金額・公的年金の受給見込み・加入期間・受け取りタイミングによって変わります。「一時金が必ず得」「年金が必ず得」という答えはありません。


退職金とiDeCoを同じ年に受け取ると税金はどうなる?(合算計算の仕組み)

退職金とiDeCoの受け取りタイミングを比較

退職金がある会社員がiDeCoを一時金で受け取る場合、受け取りの順番とタイミングによって税負担が大きく変わります。

「同年受取」の退職所得控除の計算

iDeCo一時金も、会社の退職金も、どちらも「退職所得」として扱われます。同じ年に両方を受け取る場合は合算して1つの退職所得として計算します。

このとき退職所得控除の計算式は、iDeCoの加入年数ではなく退職金の勤続年数を使います。

ポイントは「勤続年数が長ければ、控除額も大きくなる」という点です。勤続37年の場合、控除額は最大1,990万円(計算は後述)に達するため、iDeCoと退職金を合算しても控除の範囲内に収まるケースがあります。

受け取り順と適用ルール(2026年6月時点)

受け取りを別々の年にずらす場合、どちらを先に受け取るかで適用ルールが変わります。

受け取り順 適用ルール 制限の内容
同年受取 合算計算(勤続年数ベース) 勤続年数で計算した控除を1つ適用
iDeCoを先に → 退職金を後に 10年ルール(2026年1月〜) 前年以前9年以内は退職金の控除が減額
退職金を先に → iDeCoを後に 19年ルール 前年以前19年以内はiDeCoの控除が減額

10年ルール(2026年1月施行)

2026年1月から、iDeCoなどの確定拠出年金を先に一時金で受け取り、前年以前9年以内(実質10年以内)に会社の退職金を受け取ると、退職金の退職所得控除が調整(減額)されます。控除を満額使うには、iDeCo受取からおおむね10年以上空ける必要があります。

従来の「5年ルール(前年以前4年以内)」から延長されたことで、60歳でiDeCoを受け取り65歳で退職金を受け取るケースも2026年以降は調整対象に入ります。

19年ルール

退職金を先に受け取り、前年以前19年以内にiDeCoを一時金で受け取る場合、iDeCoの退職所得控除が調整されます。退職金の勤続期間とiDeCo加入期間が重複している分が、iDeCo側の控除から差し引かれる仕組みです。

ざっくり言えば、「退職金とiDeCoを別の年にずらしても、重複している期間の控除は二度使えない」——後回しが必ず節税になるとは限らないのです。

60歳で退職金を受け取った場合、19年ルールを完全に回避するには80歳以降のiDeCo受取が必要ですが、iDeCoの受給開始上限は75歳のため、実質的に回避が難しいケースがほとんどです。

制度の注意点
税制は改正されることがあります。本記事の内容は2026年6月時点の情報をもとに記述していますが、受け取り前には国税庁の最新情報または税理士にご確認ください。


私の場合——スプレッドシートで試算してみた

iDeCo残高と退職金をスプレッドシートで試算

実際に私がスプレッドシートに入力して計算した内容を紹介します(2025年12月末時点の試算。数値は変動します)。

iDeCoの現状と60歳時点の試算

項目 内容
開始時期 2019年(42歳)
当初掛金 月12,000円(DB型企業年金加入者の当時の上限)
現在の掛金 月20,000円(2024年12月の制度改正で上限引き上げ)
現在のiDeCo残高 約110万円(※年間配当実績とは別の数字)
60歳時点 2037年3月
残り入金回数 135回(2026年6月時点)
運用商品 S&P500連動型インデックスファンド
60歳時点の資産予想 約541万円(年利5%複利の場合の試算値)

※年利5%はあくまで参考値。S&P500の実際の運用成績によって大きく変わります。

退職金の試算

項目 内容
入社年月日 2000年4月1日
退職予定日 2037年3月31日(60歳定年)
勤続年数(見込み) 37年
退職金予想 約1,303万円(会社規定ベースの概算・変動あり)

退職金の金額は、基本給・勤続年数別支給率・加算額をもとに会社規定の計算式で算出した試算値です。給与変動や制度変更によって変わります。

退職所得控除の計算(同年受取の場合)

退職金とiDeCoを同じ年に受け取る場合、勤続年数(37年)で退職所得控除を計算します。

計算 金額
20年以内分:40万円 × 20年 800万円
20年超分:70万円 × (37−20)年 1,190万円
合計退職所得控除 1,990万円

私の試算結果(同年受取パターン)

カラクリは単純です。勤続37年で積み上がる控除1,990万円が、退職金とiDeCoの合計1,844万円を丸ごと上回る——だから差額はマイナスで、課税対象がゼロになります。

項目 金額
退職金(予想) 約1,303万円
iDeCo資産(5%複利試算) 約541万円
合計受取額 約1,844万円
退職所得控除 1,990万円
課税対象額 マイナス(ゼロ)
推定税額 0円

※これはあくまで「退職金・iDeCo資産・税制が試算値のまま推移する」という仮定のもとの参考値です。実際の税負担は運用成績・退職金額・税制改正で変わります。

実務上の注意
退職金は会社が、iDeCoは金融機関(SBI証券など)がそれぞれ独立して源泉徴収します。同じ年に両方を受け取る場合でも、受取時点では2機関が別々に退職所得控除を計算するため、スプレッドシートの「税額ゼロ」という結果を実現するには、確定申告での精算(還付申請)が必要になる可能性があります。受取前に税理士または金融機関に確認することを推奨します。

では「後でiDeCoを受け取る」パターンはどうなるか?

「退職金受取(2037年)→ iDeCoを後で受け取る(例:2042年=5年後)」パターンを試算してみます。

19年ルールにより、退職金受取から19年以内のiDeCo受取は、重複期間の控除が差し引かれます。

計算 金額
iDeCo加入年数(2019〜2042年:23年)の本来の控除 1,010万円(800万+70万×3年)
退職金との重複期間(2019〜2037年:18年)の控除 720万円(40万×18年)
調整後のiDeCo退職所得控除 290万円(1,010万−720万)

5年追加運用後のiDeCo資産(5%複利)は約690万円に増えていますが、調整後の控除は290万円しか使えません。

項目 金額
iDeCo受取額(5年後・5%複利試算) 約690万円
調整後の控除 290万円
課税退職所得:(690万−290万)×1/2 200万円
推定税額(所得税+住民税) 約30万円

5年後に受け取ることでiDeCoの資産は増えますが、19年ルールで控除が大幅に削られるため、同年受取(税額ゼロ)と比べて逆に税負担が増える可能性があります。

※この計算も参考試算であり、実際の税額は税理士に確認してください。

「私のこの数字では」という前提

以上の試算は、私の退職金・iDeCo・勤続年数という個別条件での結果です。

  • iDeCoの運用成績が5%を大きく上回れば(例:年利10%で受取額800万円超)、同年受取でも課税が発生します
  • 退職金が増えれば有利になる方向、制度変更があれば予測が変わります
  • 他の方の数字でそのまま適用できる結論ではありません

40代からiDeCoを始めた理由と、今の正直な評価


受け取り時期を「いつ」にするか——3パターンの比較

現時点では、以下のパターンを検討しています。

パターンA:60歳退職と同時に一時金で受け取る

私がこのパターンを有力候補にしている理由は、節税効果だけではありません。「60歳で定年退職し、元気なうちにやりたいことに挑戦したい」という人生設計があるからです(定年制のある会社なので定年延長が導入される可能性もありますが、現時点では60歳を一区切りにするつもりです)。

  • メリット:手続きがシンプル。私の現在の試算では税額ゼロの可能性がある。60歳時点で現金を手元に確保できる
  • デメリット:iDeCoの運用成績次第では課税が発生することがある。退職金・税制の変動リスクも残る

パターンB:退職後も運用を続け、65歳前後に一時金で受け取る

  • メリット:S&P500での追加運用期間5年。資産が増える可能性がある
  • デメリット:19年ルールにより、iDeCoの退職所得控除が減額調整される。試算上は同年受取より税負担が増える可能性がある

パターンC:iDeCoを年金形式で受け取る

  • メリット:受取額を毎年分散できる
  • デメリット:公的年金と合算して課税。厚生年金の受給開始後は合算額によって課税が増える可能性がある

現時点の仮の答え:パターンAが有力候補(ただし最終確認は税理士へ)

私の現在の試算では、同年受取でも税額ゼロの可能性があります。むしろ「数年後の別受取(パターンB)」は19年ルールにより、かえって税負担が増えるケースもあります。

ただし、この結論はiDeCoの運用成績・退職金の金額・税制改正によって変わります。退職前の55〜57歳ごろに税理士へ相談し、そのタイミングの数字で改めて試算する予定です。

65歳・70歳まで働き続けたい方、再雇用や転職を検討している方は、iDeCoの受け取りを遅らせることで引き続き運用を続けながら資産を増やせるメリットがあります。「いつ退職するか」「いつ現金が必要か」というライフプランから逆算して考えることが大切です。


今から準備できること

iDeCoの出口に向けて今から準備する

ねんきんネットで将来の年金受給額を確認する

iDeCoを年金形式で受け取る場合、公的年金との合算収入が課税額に影響します。将来の年金受給見込み額は「ねんきんネット」で確認できます。

ねんきんネット(日本年金機構)

私の現時点の試算では月約15.5万円ですが、制度変更によって変わる可能性があります。

退職金の概算を把握しておく

退職所得控除の計算には、退職金の金額と勤続年数が必要です。社内規定や人事部門で概算を確認できる場合があります。

私はスプレッドシートに退職金の計算式(基本給×算定基礎率×支給率など)を入力して、毎年12月に数字を更新しています。

税理士相談のタイミング

今すぐ確定させる必要はありませんが、55〜57歳ごろ(退職の3〜5年前)に税理士やFPに相談することをおすすめします。その時点での税制・退職金額・年金額・資産状況で改めて試算できます。


9年間の全記録:40歳・500万円から6,000万円になった話


まとめ:仮の答えを持ちながら、柔軟に見直す

出口戦略も、焦らず積み上げる
  • iDeCoの受け取り方は「一時金」「年金」「一部ずつ」の3択。正解は個人の状況次第
  • 同年受取なら勤続年数ベースで合算計算。「iDeCo先→退職金後」は10年ルール、「退職金先→iDeCo後」は19年ルールが適用される(2026年6月時点)
  • 「後回しが節税になる」とは限らない。19年ルールにより、かえって課税が増えるケースがある
  • 私の場合(退職金約1,303万円・iDeCo約541万円・勤続37年)は、現在の試算で同年受取でも税額ゼロの可能性がある
  • 最終判断は55〜57歳ごろに税理士へ相談。年1回スプレッドシートで数字を更新している

「老後の話はまだ先」と後回しにしがちですが、大枠の方向性だけ持っておくと、60歳が近づいたときに落ち着いて判断できます。

まず、自分の退職金の概算とiDeCoの残高をスプレッドシートに並べてみてください。退職所得控除との比較だけで、方向性はだいぶ見えてきます。

9年前、「老後資金は退職金と年金だけでいい」と思っていた私がiDeCoを始めたのは、小さな一歩でした。あのとき始めていなければ、今ごろ「しまった」と思っていたはずです。


免責事項
本記事は筆者個人の検討記録であり、特定の投資・税務上の判断を推奨するものではありません。記事内の試算は「退職金・iDeCo資産・税制がすべて現状維持」という仮定のもとの参考値です。実際の税負担は、運用成績・退職金額・税制改正・個人の状況によって異なります。本記事の情報は2026年6月時点のものです。最終的な判断は、必ず税理士・FP等の専門家にご相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。筆者は金融商品取引業者・投資助言業者・税理士ではありません。